涙、そんな時2008年03月18日

 去年、東京へ出張に行った時のことだ。横浜で仕事が終わり、京浜東北線に乗り込んだ。出張は、朝から晩まであっちこっち移動が多いので疲れる。7時過ぎ。第一次の帰宅ラッシュも過ぎ、車内には立っている人がちらほらいるくらい。この時間は横浜から東京へ行く人より、東京から横浜へ帰る人の方が多いのだろうか。

 余裕で席に座れ、次のvoltyとの対決まで、しばし休息を取る。吊り広告を見たり、美人がいないかな〜とキョロキョロしたり、ぼんやり前を眺めたり。向かいの席には、端から50過ぎくらいの、眼鏡でバーコードのおっさん。ポロシャツだから、仕事帰りじゃないのかな?それとも、ソフトなお仕事?セカンドバッグを両手で膝に乗せ、ドアの横の広告でも読んでいるのか、まっすぐ前を見ている。その隣には20代のOL。ストレートの髪は、肩よりちょっと長いくらいか。ややうつむき加減なのは、疲れているから?

 一日の終わりに電車に揺られ、だんだん睡魔が襲って来た。向かいに座っているOLの方を、見るとも見ないとも、もうろうとしながら向いていると、なんかOLの様子がおかしい。バッグからハンカチを出して握っている。彼女の頭が小さく動くと、ポタポタと涙がその手に落ちた。声を出しているのか、電車の音でここまで聞こえない。彼女の涙は止まることなく、ポタポタとその手を濡らしている。私の中に一瞬緊張が走ったが、他の人は気づいているのかいないのか、電車はガタゴト走り続ける。

 彼女の隣のおっさんは気づいてないのかと思うと、明らかに緊張した面持ちになり、彼女の方を向かないように体が硬直しているのがわかった。悲しいことがあったんだろうか。おっさん、隣で泣かれて、どう思ってるのかな。色んな考えが頭をよぎる。車掌のアナウンスも線路の音も聞こえない。

 彼女の涙は、一駅程で止まった。軽く鼻をすすると、ハンカチで濡れた手を拭き、鏡で目元を直した。おっさんの緊張も、少し解けたようだ。周りの雑音も戻って来た。そして、二人とも何事もなかったかのように電車に揺られて行った。

 それから二駅程進んだろうか。乗り降りする人で遮られ、電車が走り出すとまた二人が見えた。すると、おっさんがOLの方にほんの少し首を傾け、でも視線は前にやったまま、二言三言何かを話した。彼女はその言葉を聞くと、少し微笑みうなずいた。そして次の駅で、おっさんに何かを告げ降りて行った。二人とも笑顔に見えた。おっさん、なんて言ったんだろう?もし自分なら、どんな言葉をかけてあげられるだろう。笑顔が戻る様なことを言ってあげられるだろうか。なんてことを考えていると、今度は眠ってしまった。