四半世紀前の旅立ち、フランス2012年06月12日

表記が何でフランス語とドイツ語だけなんだ!

スペイン行き列車の切符をやっとのことで買えた時は、既に10時40分を回っていた。列車の時間まで3時間半ほど。せっかくのパリだ。市内観光でもしたい所だったが、あいにくガイド本はスペインのものしか持ってない。他はヨーロッパを紹介した、小さな冊子があるくらいだ。エッフェル塔や凱旋門なんかを観たかったが、列車に乗り遅れては大変だから、移動は徒歩圏内にとどめた(笑)

近くに大きな公園があった。木々が生い茂った立派な公園の向こうに建物が見えた。ベンチに座って少し休憩。ホッとするとお腹が空いて来た。切符買うだけでもあれだけ苦労したのに、食事なんかできない!無理だ!と思ったが、空腹には勝てず、公園を出てうろうろしてみた。レストラン風の店が何件か並んでいて、それぞれランチメニューを書いたと思われる黒板が歩道に出してあったが・・・クチャクチャと殴り書きしてあり読めない。しかし、テラス席の店がほとんどで、敷居は高くなさそうだ。その中の一軒に、意を決して入る。

12時ちょっと前なので、まだ客は少ない。ウェイターの兄ちゃんに英語で話しかけると、フランス語で返って来た・・・。しかし「to eat?」と聞いてくれた。ああ、なんとか通じるかなと少し嬉しくなり、席に案内してもらう。通りと店の間のテラス席だ。別の兄ちゃんが注文を取りに来たが、メニューがフランス語なので、チンプンカンプン。なんなのか訊こうと「What...」と言うや否や「Oh-!」と叫んで英語のメニューを持って来てくれた(笑)やっぱりチンプンカンプンだった(爆)ウェイターの兄ちゃんが「チキン」と羽ばたいたり「ビーフ」と指で角を作ったりのジェスチャー大会で、ステーキを注文。なんとかお腹も満たせた。タクシーの時もそうだったが、こんなとき一番わからないのがチップ。支払いの一割くらい置いたらいいんじゃないと言うことはわかっていたが、いつ、どうやって渡す?その時は、精算をテーブルで済ませると言うことを知らなかったので、バー・カウンターにいるウェイターの兄ちゃんの所まで行き、支払った。よくわからないので、その場でチップを手渡した。色々努力してくれたからね(笑)

オーステルリッツ駅は、ターミナル駅だけあって巨大だ。何本ものホームが大きなドーム屋根の下に並んでいる。改札も無く、そのまま目的のホームへ。列車は既に停まっていた。列車の中は、日本のものとは違い、片側に廊下があり、それぞれ8人掛けのドアの付いた小部屋になっている。ドアの窓から中をのぞくと、人が座ってたり座ってなかったり。ドアの横に小さな名札入れがある。席が決まっているんだろうか?切符を見ても、さっぱりわからない。その辺のおばちゃんに切符を見せて、この席はどこだと訊いても、ただ笑うだけだ・・・。列車は、発車ベルも無く静かに動き出した。しかし、座る所が無いとなると・・・18時間立ちっぱなしか??すると、かごにパンや飲み物を入れた兄ちゃんが歩いて来た。車内販売の売り子なら切符の見方もわかるだろうと、その兄ちゃんに席を訊くと、一言「No!」席は無いと言う・・・。おいおい・・・と思っていると、もう一人の男がこっちに来いと手招きをしてくれた。そして、ここが空いているから座れと、空席に案内してくれた。後で考えてみると、自由席だから、どこに座ってもよかった様だ(笑)

列車の小部屋(コンパートメント)は、4人がけの椅子が向かい合わせになっている。その部屋には、4人のおばさんがいた。扉側で進行方向を向いて座っていたのは、60歳くらいのおばあさん。その向かいに、首にむち打ちのギプスをはめた、やっぱり60くらいのおばあさん。ひとつ空けてアガサ・クリスティを読んでいる、少し上品な、それでもって田舎っぽい、いやちょっとイテリっぽい?おばさん。その向かいには、化粧の濃い50歳くらいのおばさんが座っていた。私はむち打ちとアガサ・クリスティのおばさんの間に座った。むち打ちのおばあさんと向かいのおばあさんは、どうやら連れの様だ。しばらくみんな、黙って乗っていたが、そのうち扉側のおばあさんが、化粧のおばさんに話かけ、そして4人で世間話を始めた。私は、会話を聞いてもさっぱりだし、かといって窓から遠いので、車窓をずっと眺めているわけにもいかない。座らされた席が、おしゃべりの真ん中に陣取った形になっているが、会話に参加できるわけも無い。時々目が合うおばさんたちに愛想笑いを返すくらいだ。すると、化粧のおばさんが片言の英語で「日本人か?」と訊いて来た。「そうだ」と言うと「ボルドーへ行くのか?」「サラマンカ」「大学?」「そう」など、ほとんど単語での会話だった。他のおばさんたちも、いろいろ訊いてくるが、フランス語だからわからない。それでも、いろいろと話しかけてくれる。「ほら、あれを見て」と窓の外を指差して、両手で三角のとんがった形を作って、「あれは教会よ」とか、いろいろな建物の説明もしてくれた。みんな降りる駅は別々だったけど、別れ際にこう言ってくれた「Bon Voyage!(良い旅を)」。でも、7時間にも及ぶ列車の旅を「Bon Voyage」にしてくれたのは、他ならぬおばさんたちのおかげだった。

みんな降りて部屋には一人になり、フランス最後の駅で、売り子たちも降りて行った。フランスとスペインでは、線路の幅が違う。ヨーロッパで、スペインだけが幅の広い線路を使っているので、国境では乗り換える必要があったのだ。これが夜10時22分発の列車だと、たぶん寝台車になるので、乗ったまま台車を付け替えてくれるらしいのだ。そう言う意味でも、切符売り場のおっちゃんの心配がわかった気もした(笑)みんな降りて行くが、ここはまだフランス?それともスペイン??出入り口にいるおっちゃんに聞いてみることにした。