四半世紀前の旅立ち、スペイン入り2012年06月14日

今でも渡れるかな〜

ここはもうスペインなのか、それともまだフランスなのか。国境駅と言っても、国境線の真ん中に駅があるわけではない。フランス側の国境駅とスペイン側の国境駅があり、それぞれに入出国管理や税関があり、旅行者は行き先の国の国境駅まで行き、そこで入国審査を行うのだ。だから、同じ国境駅でも、フランス側で降りたら大変だ。しかし、ほとんどの人が降りてしまい、不安になったので、扉付近にいたスペイン人らしきおじさんに、訊くことにした。「ここはIrun(スペイン側の国境駅)か?」「違う!スペインは、反対側から降りるんだ!」やたら元気がいい(笑)「どこまで行くんだ?」「サラマンカ」「オー!マドリッドからいくのか?」「いや、メディナ・デル・カンポで乗り換える。」「メディナ・デル・カンポ??やめとけ、やめとけ!!何にも無い所だぜ。小さい、小さい。マドリッドにしときな!マドリッドには何でもあるぞ!カフェ、バル、レストラン、コーラにペプシもあるで!!!」ガンガン、まくしたてるように喋る。明るい!これがスペイン人か??

イルン駅に到着し、税関を通る。陸の国境越えだ。でも、荷物検査など無し、パスポートを見るだけ。空港のように仰々しい設備など無く、普通の田舎の駅って言う感じだった。後で気づいたが、入国のスタンプすら押してくれない簡単さだった(笑)両替をして一息つく。時計を見ると午後9時半。だが、まだ夕方のように明るい。列車の出発は10時半。席はガラガラで、誰もいないコンパートメントを独り占めした。他の部屋を見て回ると、アメリカ人の団体と若者が2、3人くらいだ。10時頃にやっと日が暮れ、辺りが暗くなり始めた。えっ、10時?どうやらスペインはこの季節、日暮れが10時頃の様だ。部屋には蛍光灯がついているが、暗い!ちょっと落ち着いたので、日記を書こうと思ったが、字が読めないほど暗かった。ほっこりと、日本を出てから今までのことを思い出す。まだ一日ちょっとしか経ってないが、色々あった気がする。そんなことを思っていると、警笛が鳴って列車がゆっくりと動き出した。

乗換駅のメディナ・デル・カンポ到着は朝になる。一人だから、横になって寝られるかなと思ったら、30歳くらいの若い男が「空いてるか?」と扉を開けた。アラブ系の顔立ちで頭はパンチパーマ風。黒いシャツに黒いズボン、白いジャケットを着て黒いカバンを持っている。薄暗いので、そのくらいしかわからない。何か話しかけてくるが、全くわからない。「フランス語?僕はフランス語はわからないよ。」と答えると、英語で話して来た「いや、私はモロッコのカサブランカに住んでいる。私はモロッコの言葉とフランス語はできる。英語も少しわかるが、大変貧弱だ。」さっきのは、モロッコの言葉だったのか?「僕も少しなら英語はできるよ。」そう聞くと、男はうす笑みを浮かべ「悪いが閉めさせてもらうよ。」と戸を閉めた。と、その時、二人のスペイン人が、席が空いてるかと戸を開けた。すると男が強い口調で「No!空いてない。あっちへ行ってくれ!」と言って、ピシャリととを閉めた。二人を追い払って、男が言った「実は、私はお金を持っていない。ゼロだ。だから他の人が来ると困る。」。えっ、どう言うことだ?

薄暗い部屋だったが、列車が走るにつれ、だんだん明るくなって来た。見知らぬ土地の列車のコンパートメントに、一文無しのモロッコ人と二人きり。やばいな〜、金貸してくれって言うんじゃないかと、緊張でドキドキしていた。男はタバコを出して「吸うか?」と訊いて来た。「いや、僕は煙草は吸わない。」「そうか・・・吸ってもかまわないか?・・・ありがとう。」結構礼儀正しい。「どこまで行くんだ?」「サラマンカへスペイン語を勉強しに行くんだ。」「学生か?」「夜学校へ行って、昼は事務所で働いている。」「大変だな・・・」片言の英語で会話しながらも、いつ金の話を切り出されるんだろうと、そればかり考えていた。もしナイフなんか持ってたらヤバいな・・・。男は煙草を吸いながら廊下へ出た。どうやら、他の部屋の様子を見に行ったらしい。大きな荷物もあるし、列車だから逃げられないな。ああ、今までは結構いい感じだったのに。そう思っていると、男が慌てた感じで戻って来た。そして、部屋に入ると自分のカバンをつかんで言った。「あっちに友だちがいる。あっちへ行くよ!」「友だち?」「ああそうだ。それじゃ、ありがとう。がんばって、Bon Voyage!」そう言って男は出て行った。一気に緊張が解け、力が抜けた。

後で考えると、走る列車の中で強盗はたらいても、他に乗客もいるし車掌も回ってくる。それほど無茶はしないかな。ただ、夜行列車は、寝込みを襲う泥棒がいるので、それには注意が必要だから気が抜けない。数年後、それでビデオやカメラ一式を盗まれることになるが、それはまた別の機会に。

検札に来た車掌が、メディナ・デル・カンポは6時着だと教えてくれた。少し眠ることにする。

【写真は本文には直接関係ありませんが、サラマンカの鉄橋。パリ編にも、翌年撮ったものですが写真追加しました。映っている車は、たまたま停まっていたもので、年代的にもこれらが走り回っていたわけではありません(笑)】